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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)1501号 判決 1994年8月30日

大阪市東住吉区湯里二丁目二番八号

原告

サラヤ株式会社

右代表者代表取締役

更家一郎

右訴訟代理人弁護士

中島馨

右訴訟復代理人弁護士

小林俊明

右中島輔佐人弁理士

山本秀策

大阪府吹田市津雲台七丁目四番D一二六-一〇一号

被告

株式会社アルボース

右代表者代表取締役

佐治信

右訴訟代理人弁護士

渡辺四郎

末井太

右渡辺輔佐人弁理士

筒井秀隆

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙第一物件目録及び第二物件目録記載の自動うがい機を製造し、販売してはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の各物件の完成品並びに半製品(前項記載の物件の構造を具備しているが、未だ製品として完成に至らないもの)を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金四四〇〇万円及びこれに対する平成五年三月二日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、別紙謝罪広告目録二1記載の各新聞に、同目録一記載の謝罪広告を、同目録二2記載の大きさで掲載せよ。

第二  事案の概要

(争いのない事実)

一  原告の権利

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

(一) 考案の名称 うがい装置

(二) 出願日 昭和六一年一一月一二日(実願昭六一-一七四六五三号)

(三) 出願公告日 平成二年一一月九日(実公平二-四二二六二号)

(四) 登録日 平成四年八月七日

(五) 登録番号 第一九二三三一六号

(六) 実用新案登録請求の範囲

「先端口部より水を吐出させる水ノズル部と、先端口部より薬液を吐出させる薬液ノズル部とを備えたうがい装置であって、前記水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設け、水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ、前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成したうがい装置。」(添付の実用新案公報〔以下「公報」という。〕参照)

2 本件考案の構成要件

本件考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

A 先端口部より水を吐出させる水ノズル部と、先端口部より薬液を吐出させる薬液ノズル部とを備えていること。

B 前記水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設けること。

C 水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させること。

D 前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成すること。

E うがい装置であること。

3 本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は次のとおりである。

(一) 薬液ノズル部の先端口部の位置は、水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができ、かつ薬液が水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当たるようになっているので、薬液の飛沫が水ノズル部に付着することがない。

(二) 薬液ノズル部の先端口部を水の吐出経路に近づけることができ、薬液吐出のポンプとしては小さなポンプを使用できる。

(三) 混合液ノズルによって水と薬液との混合液(うがい液)を口に含みやすい方向に吐出させることができる。

二  被告の行為

被告は、平成四年四月頃から、業として、別紙第一物件目録記載の自動うがい機(以下「第一イ号製品」という。)及び別紙第二物件目録記載の自動うがい機(以下「第二イ号製品」という。第一イ号製品と第二イ号製品は、前者が「薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の先端口部10aより三ミリメートルより少なく内部に位置させて設置している」のに対し、後者が「薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はこれより先方に突出した位置に設置させている」点で差異があるのみである。以下両製品を一括して「イ号製品」という。)を製造販売している。

三  イ号製品の構成

イ号製品の構成は次のとおり分説するのが相当である。

1 第一イ号製品

a 先端口部5aより水を吐出させる水ノズル部5と、先端口部9aより薬液を吐出させる薬液ノズル部9とを備えている。

b 前記水ノズル部5の先端口部5aから吐出された水が入る、同水ノズル部の先端口部5aに一端が対向する中継ノズル部10を設けている。

c 前記薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させている。

d 中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の先端口部9aから吐出される薬液とを、中継ノズル部内及び空気中において混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aより三ミリメートルより少なく内部に位置させて設置している。

e 中継ノズル部の吐出口部10aと薬液ノズル部の先端口部9aとをともに上向きに傾斜させている。

f うがい装置である。

2 第二イ号製品

a 先端口部5aより水を吐出させる水ノズル部5と、先端口部9aより薬液を吐出させる薬液ノズル部9とを備えている。

b 前記水ノズル部5の先端口部5aから吐出された水が入る、同水ノズル部の先端口部5aに一端が対向する中継ノズル部10を設けている。

c 前記薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させている。

d 中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の先端口部9aから吐出される薬液とを空気中で混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はこれより先方に突出した位置に設置させている。

e 中継ノズル部の吐出口部10aと薬液ノズル部の先端口部9aとをともに上向きに傾斜させている。

f うがい装置である。

(請求の概要)

主位的に、イ号製品が本件考案の構成要件を全て充足し本件考案の技術的範囲に属することを理由に、予備的に、仮に第二イ号製品が本件考案の構成要件の一部を欠いているとしても、本件考案のいわゆる改悪実施又は不完全利用に当たることを理由に、<1> イ号製品の製造販売の停止、<2> イ号製品の完成品並びに半製品の廃棄、<3> 被告がイ号製品の販売により得た利益額四四〇〇万円(イ号製品一台当たりの販売利益八万八〇〇〇円×五〇〇〔販売台数〕)相当の損害の賠償、及び、<4> 謝罪広告の掲載を請求。

(主な争点)

1  イ号製品は本件考案の技術的範囲に属するか。すなわち、

(一) イ号製品は、本件考案の構成要件Bの「混合液ノズル部」の構成、構成要件C及び構成要件Dの「混合液ノズルの他端……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」構成を具備しているか。

(二) 仮に第二イ号製品について(一)が認められないとしても、第二イ号製品は、本件考案のいわゆる改悪実施又は不完全利用に当たるか。

2  1の(一)又は(二)が肯定された場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(一)(イ号製品は、本件考案の構成要件B、C及びDの構成を具備しているか)

【原告の主張】

イ号製品は、次のとおり本件考案の構成要件B、C及びDの構成を具備している。

1 本件考案にいう「混合液ノズル」の意義・内容

(一) 水の吐出方向について

本件考案の詳細な説明には、「薬液ノズル部の先端口部を混合液ノズルの一端側に接続し、混合液ノズルの内部で薬液を水に当てるようにしても良い。」(公報4欄18行~21行)と記載されており、右記載からすると本件考案が混合液ノズルの内部に入った水に薬液を当てるという技術思想も開示していることは明らかである。したがって、実用新案登録請求の範囲に記載の「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズル部の一端に入る水」という場合の「水」の中には、単に「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入ろうとする水」だけでなく、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入った水」も含まれ、「吐出されて」の語句は単に「混合液ノズル部の一端に入る水」を修飾するだけであって、それに続く「吐出方向」の意義を特段限定するものではない。すなわち、本件考案において、水ノズル部の先端口部から吐出された水は、混合液ノズルの一端に入り、更に同ノズルの内部を流通してその他端から吐出されることになる。そして、そのような一連の流通過程における水の流通方向の典型例としては、一つは当初の段階における水ノズル部の先端口部からの水の吐出方向が想定されるが、それのみではなく最終段階における混合液ノズル部の吐出口部からの水の吐出方向も考えられるのであって、実用新案登録請求の範囲ではそれらの各種吐出方向をまとめて表現するために「水の吐出方向に対して……水に薬液が当たる」と記載したのである。したがって、そこでいう「吐出方向に対して」とは、右のような一連の流通過程における全ての「水の流通方向に対して」という広い意味に解釈すべきものであり、「混合液ノズル部の一端に入ろうとする水の吐出方向」のみならず、「混合液ノズル部の一端に入った水の吐出方向」も包含する意味と解すべきである。

(二) 薬液と水との混合開始部位について

(一) で述べたように実用新案登録請求の範囲に記載の「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズル部の一端に入る水」という場合の「水」とは、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入ろうとする水」のみならず、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入った水」も含むから、構成要件Cにおいて「水に薬液が当たるように」という場合、水に薬液が最初に当たる場所、すなわち薬液と水との混合開始部位が、水ノズル部の先端口部から混合液ノズル部の吐出口部の直後に至る水の流通過程の全てを含む意味であることは明らかである。実用新案登録請求の範囲には、「……この吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成した」と記載されており、単にこの記載だけを読むと、本件考案は遅くとも混合液ノズル部の吐出口部に至るまでの間に薬液を水に当てて混合する構造を有する装置のみを想定しているかのようにみえる。しかしながら、本件考案の構成要件Bの「水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設ける」構成は、本件考案前に公知例は存在せず、右構成は本件考案においてはじめて開示されたものであり、これが本件考案の最重要構成要件と考えるべきである。このことはその作用効果に徴しても明らかである。すなわち、本件考案が右のように水ノズル部と混合液ノズル部の間に空間部分を設けたのは、薬液の飛沫が水ノズル部に付着するなどして、水ノズル部又は水道本管が負圧となった場合等に薬液が水ノズル部を通って水道本管に逆流するのを防止するためであり、本件考案の本質的特徴はまさにこの点に存し、そこに新規性と進歩性が認められたことは、出願段階において被告の本件考案に対する登録異議の申立に関する特許庁審査官の決定(甲第五号証)により既に確定している。これに対し、イ号製品では、その構成dにみられるように、水ノズル部とは別個独立のノズル部(中継ノズル部)の吐出口部の高さと薬液ノズル部の先端口部の高さをほぼ一致させることによって、中継ノズル部の吐出口部から吐出された水と薬液を同ノズルの内部ではなくて、吐出直後の空気中で混合させるため、混合液は中継ノズル部内を通過しない。しかしながら、水と薬液との混合開始部位さえ問題にしなければ、イ号製品においても右のように水ノズル部とは別個独立のノズル部(中継ノズル部)を設置しており、その設置目的、構造及び作用効果はいずれも本件考案と全く同一であり、そのような水ノズル部とは別個独立のノズル部を混合液ノズル部と称するか、あるいは中継ノズル部と称するかは、単に当該部位の呼称の問題にすぎない。したがって、以上のように本件考案の本質的特徴となっており、その最重要構成要件である構成要件Bとの関係では、その他の構成要件はいずれも付随的構成要件にすぎないから、そのような付随的構成要件中の個々の文言の意義はさほど厳格に解釈する必要はない。本件考案はうがい装置であり、水と薬液は最終的にうがいをしようとする人の口に入るまでの間に混合されればよいのであるから、本件考案における水と薬液との混合開始部位は、水が水ノズル部から吐出されてから混合液ノズル部の一端に入るまでの間、混合液ノズル部の一端に入った後同ノズル部の他端から吐出されるまでの間、及び、吐出された直後の全ての時点における水の流通部位を包含している。したがって、うがい装置全体として考えれば、本件考案において水と薬液を混合液ノズル部の吐出口部の開口部の内側直近部分で混合させることと外側直近部分で混合させることとの間には格別技術的に有意差はなく、そのような観点から実用新案登録請求の範囲の記載を合理的に解釈すると、本件考案における水と薬液との混合開始部位の中には、混合液ノズル部から吐出された水の直近の空気中も含まれると解すべきである。

(三) 水と薬液との混合方法及び水に対する薬液の注射角度について

実用新案登録請求の範囲には、単に「水に薬液が当たる」と記載されているだけであるから、本件考案における水と薬液との混合方法は、薬液を外側から水に当てる場合にのみ限定されるものではなく、薬液を内側から水に当てる場合も包含しているものと解すべきである。そして、薬液が水に「直角及至鋭角に」当たるとは、「水の吐出方向」すなわち「水の全ての流通方向」に対して直角及至鋭角をなす角度で薬液が水に当たるという意味である。したがって、本件考案では薬液ノズル部の先端口部の設置方向は水の流通過程のどの部位で薬液を水に当てるかによって異なり、薬液を外側から水に当てる場合と内側から水に当てる場合とが想定されるが、いずれの場合も薬液と水のなす角度が直角及至鋭角となることは明らかである。本件考案においてこのように薬液の注射角度を設定した技術的理由は、薬液ノズル部の先端口部から吐出された薬液が、水ノズル部の先端口部から吐出された水に当たって両者が混合されるようにするためであり、薬液と水のなす角度が鈍角である場合には、薬液と水が衝突した際に薬液の飛沫を生じるからである。

(四) 混合液ノズルについて

以上から明らかなように、本件考案における「混合液ノズル」は、その内部で水と薬液とを混合する構造・機能が一部でもあればそれに該当し、必ずしもその内部だけで水と薬液との混合を全部完了する構造・機能のものでなくともよい。

2 本件考案とイ号製品との対比

(一) 第二イ号製品との対比

本件考案の構成要件C及びDと対応するのは第二イ号製品の構成c及びdである。そして、本件考案の右構成要件は、1で述べた二つの技術課題、つまり、<1> 水に薬液を混合させる場合、水に対する薬液の注射角度をどうするか、あるいは右注射角度を確保するために薬液ノズルの先端口部の設置方向をどうするかという混合方法の問題と、<2> 水と薬液が最初に当たる位置をどこにするか、つまり水が水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズル部(中継ノズル部)に入るまでの間の部位か、混合液ノズル部(中継ノズル部)の内部か、それとも混合液ノズル部(中継ノズル部)から吐出されると同時若しくはその直後の部位かという混合開始部位の問題を解決するための手段である。そこで、以下では右<1>及び<2>の技術課題について、順次本件考案の構成要件C及びDと第二イ号製品の構成c及びdとを対比し、その属否を検討する。

(1) 混合方法について

本件考案では、この問題を水の流通方向に対し直角及至鋭角に水に薬液が当たるように薬液ノズルの先端口部を設置して解決している(構成要件C)のに対し、第二イ号製品では、中継ノズル部10に入った薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させて解決している(構成c)点で差異がある。しかし、右第二イ号製品の構成cは薬液を中心にして表現しているが、これを逆に水を中心にして表現し直してみると、中継ノズル部から吐出される水に対し、その中心部に薬液ノズルの先端口部をセットし、そこから薬液を水の流通方向と平行に吐出させると表現することができる。そして、右第二イ号製品の構成cにおいて水の流れと薬液の流れを字義どおり完全に平行にすれば、水と薬液は混合の目的を永久に達し得ないから、第二イ号製品でも結果的には吐出された水と薬液が鋭角に収斂し相互に接触し混合し合っていることは明らかである。したがって、第二イ号製品においても中継ノズル部の一端に入った「水の吐出方向」すなわち水の流通方向に対して鋭角に水に薬液が当たるように薬液ノズルの先端口部を位置させているということができるから、第二イ号製品は本件考案の構成要件Cを具備している。

(2) 混合開始部位について

本件考案では、混合液ノズル部の「吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成」しており(構成要件D)、薬液と水との混合開始部位は混合液ノズル部内であるのに対し、第二イ号製品では、中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の吐出口部9aから吐出される薬液とを空気中で混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はこれより先方に突出した位置に設置しており(構成d)、薬液と水との混合開始部位は混合液ノズル部から吐出された直後の水の直近の空気中である点に差異がある。しかし、本件考案は、薬液と水との混合開始部位を混合液ノズル部から吐出された水の直近の空気中とするものも含まれているから、第二イ号製品は本件考案の構成要件Dを具備している。

(二) 第一イ号製品との対比

第一イ号製品と第二イ号製品は、前者が「薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の先端口部10aより三ミリメートルより少なく内部に位置させて設置している」のに対し、後者が「薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はこれより先方に突出した位置に設置させている」点で差異があるのみであり、第一イ号製品の場合、薬液の注射角度及び薬液ノズルの先端口部の設置方向は第二イ号製品と全く同一であり、薬液と水との混合開始部位も第二イ号製品と同様に大部分が中継ノズル部から吐出された後の空気中となるから、(一)で述べたことがそのまま第一イ号製品についても妥当する。

3 結論

以上によれば、イ号製品の構成b、c及びdは、本件考案の構成要件B、C及びDを具備しており、イ号製品は本件考案の技術的範囲に属する。

【被告の主張】

イ号製品は、本件考案の構成要件B、C及びDの構成を欠いているから、本件考案の技術的範囲に属しない。詳細は次のとおりである。

1 水の吐出方向について

本件考案の構成要件Cの「水の吐出方向」とは、実用新案登録請求の範囲に記載のとおり、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向」そのものを意味することは明らかである。これに対し、イ号製品では、そもそも水ノズル部の先端口部から吐出されて中継ノズルの一端に入る水に対して薬液を当てないのであるから、「混合液ノズル」がなく、その点で両者は構造が異なる。

2 混合開始部位について

本件実用新案登録請求の範囲には、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たる」と明記されているのみならず、考案の詳細な説明には、考案の作用について、「薬液は水ノズル部の先端口部から出た水に当たって混合され、その後混合液ノズルの吐出口部から所定角度で吐出される。」(公報3欄13行~15行)との記載があり、また、実施例について、「水ノズル部5の先端口部5aから水平に吐出した水が混合液ノズル10の一端に届く迄に薬液ノズル部9の先端口部9aから水平に吐出した薬液が水に当たって混ざり合い」(同3欄30行~34行)との記載、及び、「水ノズル部の先端口部と混合液ノズルの一端との間で吐出されている水に薬液ノズル部の先端口部から水平に吐出された薬液が直角に当たるようにする。」(同4欄11行~14行)との記載がある。その一方で、原告の主張するように考案の詳細な説明には実施例について、「また薬液ノズル部9の先端口部9aを混合液ノズル10の一端側に接続し、混合液ノズル10の内部で薬液を水に当てるようにしても良い。」(公報4欄18行~21行)との記載はあるけれども、そこで「混合液ノズル10の一端側」と限定したのは、混合液ノズル10の他端側を排除する趣旨に理解すべきである。何故ならば、他端側をも含む趣旨であるのならば、特に「一端側に接続し」と限定して記載する必要はなく、単に「混合液ノズルに接続し」と記載すれば足りるからである。更に、考案の詳細な説明には本件考案の作用効果について、「薬液ノズル部の先端口部の位置は水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができ、かつ薬液が水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当たるようになっているので薬液の飛沫が水ノズル部に付着することがない。」(公報4欄23行~28行)との記載があり、右記載は、薬液を水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当てるようにしなければ、薬液の飛沫が水ノズル部に付着する恐れがあることを意味すると同時に、薬液が水に最初に当たる場所(混合開始部位)が、水が水ノズルから吐出されて混合液ノズルに入るまでの間、及び、混合液ノズルに入った直後までの間であることも意味している。水と薬液との混合開始部位が混合液ノズルの他端側であるならば、薬液の飛沫が水ノズル部に付着するのを避けるために、わざわざ薬液を水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当てる構成を採る必要はないからである。したがって、以上の事実を総合考慮すると、本件考案における水と薬液との混合開始部位は、水が水ノズル部から吐出されてから混合液ノズルに入るまでの間、及び、混合液ノズルの入口近傍のみを意味するものと解すべきである。

これに対し、イ号製品では、薬液と水との混合開始部位は、中継ノズル部の出口部近傍又はその先方の空気中であり、その点でイ号製品は本件考案と構造が異なっている。

(原告の主張に対する反論)

(一) 原告は、本件考案の本質的特徴であって、その最重要構成要件である構成要件Bとの関係では、その他の構成要件はいずれも付随的構成要件にすぎないから、そのような付随的構成要件中の個々の文言の意義をさほど厳格に解釈する必要はない、本件考案はうがい装置であり、水と薬液は最終的にうがいをしようとする人の口に入るまでの間に混合されればよいのであるから、本件考案における水と薬液との混合開始部位は、水が水ノズル部から吐出されて以後混合液ノズル部の一端に入るまでの間、混合液ノズル部に入った後同ノズル部の他端から吐出されるまでの間、及び、吐出された直後の、全ての時点における水の流通部位を包含していると解釈すべきである、したがって、うがい装置全体として考えれば、本件考案において水と薬液を混合液ノズル部の吐出口部の開口部の内側直近部分で混合させることと外側直近部分で混合させることとの間には格別技術的に有意差はなく、そのような観点から合理的に解釈するならば、本件考案における水と薬液との混合開始部位は、混合液ノズル部から吐出された後の直近の空気中を含むと解すべきである旨主張する。

しかしながら、原告が本件考案の最重要構成要件であると主張する、水ノズル部とは独立した混合液ノズルを、一定の空間を置いて各々その一端が対向するように設置する点(構成要件B)について、願書添付明細書にはそのような構成にする目的及び作用効果に関する記載が全くないばかりか、かえって、原告が付随的構成要件にすぎないと主張するその他の構成要件についてのみ、その目的、構成及び作用効果が記載されている。本来明細書には当該考案が解決しようとする技術的課題(目的)と、これを解決するための手段(構成)がその作用とともに記載され、それによって生じる特有の作用効果も具体的に記載されているはずのものであるから、原告の右主張は明細書の記載を離れて本件考案の技術思想を独自に抽象化し拡大解釈するものといわざるを得ない。また、原告が真実構成要件Bのみが本件考案の最重要構成要件であり、他の構成要件は付随的構成要件にすぎないと認識していたのであれば、その点に絞って実用新案登録請求をすべきであって、原告が現実にはその他の構成要件を加えた本件考案について実用新案登録請求をし、登録査定されたということは、本件考案がそれらの付随的構成要件を併せてはじめて登録に値する新規性及び進歩性を持つものとして権利化されたことを示すものにほかならない。したがって、右原告主張は理由がない。

(二) 原告は、イ号製品について、中継ノズルから吐出される水と薬液ノズルから吐出される薬液が、中継ノズルの内部及びその先方の空気中で混合しているから、本件考案の技術的範囲に属する旨主張する。

しかしながら、ここで重要なことは、中継ノズルの先端口部から吐出された液体が混合液すなわち「水と薬液との混合が実質的に終了した液体」であるか否かということである。すなわち、実用新案登録請求の範囲には、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ」、「混合液ノズルの他端の……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」と明記されている。右記載に照らせば、本件考案は、混合液ノズルの内部で水と薬液が十分に混合され、混合液ノズルの吐出口部からは混合終了状態の混合液のみが吐出される構造のものであることは明らかである。

これに対し、第二イ号製品では、中継ノズルの先端口部から吐出された液体は未だ水と薬液が混合終了状態に至っていないのは勿論、中継ノズルの吐出口部の先方の空気中で混合が終了する。すなわち、水と薬液が薬液ノズルの先端面から約一〇ミリメートル以上の高さに達するまでは、中心に薬液が流れ、その周囲を水が取り囲むように流れている未混合状態にあり、混合が実質的に終了するのは水と薬液が薬液ノズルの先端面から約一〇ミリメートル以上の高さに達した後のことであり(検乙第六号証の実験写真)、それはまさに中継ノズルの先端口部の先方の空気中にほかならない(なお、検乙第一号証ないし第八号証は第二イ号製品〔薬液ノズルの中継ノズルからの突出長さを約〇・二ミリメートル程度に設定したもの〕を用いた実験写真であるが、以上の混合の模様は第一イ号製品の場合も全く同様である。)。また、薬液ノズルの先端面が中継ノズルの先端面より内側に三ミリメートル入り込んでいる製品(第一イ号製品)を想定すると、水と薬液とが中継ノズル内で接触している時間は僅か約〇・〇〇二秒と非常に短時間にすぎず(水の流量を一時間当たり五〇リットルと仮定すると、中継ノズル内の水の流速は毎秒一四四三・七五ミリメートルとなり、中継ノズル内で水と薬液が接触している時間は約〇・〇〇二秒(三÷一四四三・七五)となる。)、そのような超短時間のうちに粘性流体である水と薬液が実質的に混合を終了することはあり得ない。

以上のように、イ号製品では、水と薬液が空気中で混合しており、中継ノズルから吐出される液体は未混合状態の水と薬液であるから、イ号製品の中継ノズルが本件考案の混合ノズルと構成及び作用効果を異にしていることは明らかである。

3 混合方法について

本件考案の詳細な説明には、考案の目的について、「薬液の飛沫が水ノズル部に付着するようなことはなく」(公報2欄19行~20行)との記載があり、作用効果についても、前示のとおり、「薬液ノズル部の先端口部の位置は水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができ、かつ薬液が水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当たるようになっているので薬液の飛沫が水ノズル部に付着することがない。」(同4欄23行~28行)との記載がある。したがって、右各記載に照して考えると、明細書全体に一貫して開示されている本件考案の技術思想は、薬液を外側から水に当てるという技術思想であり、本件考案は、薬液の飛沫の発生自体を防止することを目的とするものではなく、むしろ発生する薬液の飛沫が水ノズル部に付着するのを防止することを目的としているものといえる。ところで、薬液の飛沫が発生するのは、本件考案が薬液を外側から水に当てる混合方法を採ったからであって、イ号製品のように水が薬液の周囲を包み込みながら流れる(原告の表現に従えば薬液を内側から水に当てる)混合方法を採った場合には、そもそも薬液の飛沫自体が発生しないのである。そのような意味からすると、本件考案では、薬液と水との混合方法は、薬液を外側から直角及至鋭角に水に当てるものに限られると解すべきである。

4 混合液ノズルについて

本件考案における混合液ノズルは、一端側(流入口)から水と薬液を流入させ、その内部で両者を混合し、他端側(吐出口)から混合液を吐出する構造である。これに対し、イ号製品には右のように水と薬液をその内部で混合するための混合液ノズルが存在せず、水と薬液を中継ノズルの先方の空気中で混合する構造のものである。したがって、イ号製品は、本件考案の構成要件Bの「混合液ノズル部」の構成、構成要件Cの「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させる」構成及び構成要件Dの「混合液ノズルの他端……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」構成をいずれも具備していない。

5 イ号製品の作用効果

以上のとおりであるから、イ号製品は本件考案と異なる次の作用効果を奏する。

<1> 薬液ノズル部の先端口部から吐出された薬液は中継ノズル部の吐出口部から吐出された水と混合されるとともに、上向きに吐出されるので、混合液を口に含みやすい。

<2> 薬液ノズル部の先端口部の位置は水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができるので、薬液や混合液が水ノズル部へ逆流することがない。

<3> 中継ノズル部から吐出される水が薬液の周囲を包み込みながら吐出されるので、薬液が周囲に飛び散らず、しかも水と薬液との混合性が良好となる。

<4> 中継ノズルの中では水と薬液が混合されず、空気中で混合されるので、中継ノズル部の内面には混合液が残留せず清潔に保てる。

二  争点1(二)(第二イ号製品は、本件考案のいわゆる改悪実施又は不完全利用に当たるか)

【原告の主張】

1 第三者が実用新案の作用効果を低下させる以外に何ら優れた作用効果を伴わないのに、専ら権利侵害の責任を免れるために、考案の構成要件のうち比較的重要性の少ない事項を省略した技術を用いるときは、その行為は考案の構成要件にむしろ有害な事項を付加してその技術思想を用いるものにほかならず(不完全利用又は改悪実施)、当該実用新案権を侵害するものと解すべきである。

被告は、第二イ号製品は本件考案の構成要件Bの「混合液ノズル部」の構成、構成要件Cの構成及び構成要件Dの「混合液ノズルの他端……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」構成を欠いていると主張するところ、右構成要件B、C及びDは薬液と水との混合性を高めるための手段であるが、本件考案の本質的特徴からみれば比較的重要性の少ない構成要件であり、第二イ号物件は右各構成を省略して、中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の吐出口部9aから吐出される薬液を空気中で混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はそれより先方に突出した位置に設置させ(構成d)ることにより、薬液と水との混合開始部位を変更しているが、これは被告において専ら本件実用新案権侵害の責任を免れるために採った構成であり、そのことによって特異な作用効果を発揮するわけではない。第二イ号製品のこのような構成は、薬液と水との混合性の点で本件考案よりも劣るとともに、薬液や混合液の飛沫が発生し、あるいは断水時等何らかの事由で水の供給が急に止ったときに薬液のみが吐出口部から噴出し、それがうがいをしようとする人の口や目に入る極めて危険なものであって、本件考案の作用効果を低下させる以外には何らの優れた作用効果を伴わないものである。したがって、第二イ号製品は、本件考案の構成要件にむしろ有害な事項を付加して本件考案の技術思想を用いるものであり、本件実用新案権を侵害する。詳細は以下に述べるとおりである。

2 不完全利用(改悪実施)の成立要件として次の四点を挙げるのが定説となっている。

<1> 当該考案と同一の技術思想に基づきながら、実用新案登録請求の範囲のうち、比較的重要性の少ない構成要件を省略、置換などしたものであること。

<2> 当該考案が既に公知であるがゆえに、これに基づいて省略、置換などをすることが極めて容易であること。

<3> 右省略、置換などすることによって、当該考案よりも効果が劣ることが明白であること。

<4> そのように改悪実施することによってもなお当該考案の出願前の技術(従来技術)に比べ作用効果上特に優れたものがあること。

そこで、以下において第二イ号製品が右<1>ないし<4>の要件を全て充足することを順次論証する。

(一) 要件<1>について

本件考案の最重要構成要件が構成要件Bの「水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設けること」であることは明らかである。何故ならば、そのような構成を採用することによってはじめて薬液ノズル部の先端口部の位置は、水ノズル部の先端口部の位置から十分に距離を置くことができ、その結果、薬液や混合液の飛沫が水ノズル部に付着するなどして、水道に逆流することがなくなるからであり、それこそが本件考案の解決すべき中心的技術課題ともなっているからである。これに対し、第二イ号製品では、薬液と水との混合開始部位が相違している。すなわち、本件考案では、混合開始部位が混合液ノズル部の両端開口部のうち水ノズル部と対向する側の一端開口部であるのに対し、第二イ号製品では、混合開始部位が中継ノズル部の対向する側とは反対の他端口部外直近の空気中である。しかし、これは本件考案の所期する作用効果との関係では重要な差異とはいえない。なんとなれば、本件考案はうがい装置であるから、薬液と水を混合させる部位は、うがいをしようとする人の口に入るまでの間であればどこでもよいのであって、どの部位で混合させるかは、薬液と水との混合性を可能な限り高くするという技術的観点から適宜選択されるべき設計事項であり、それ自体さして本質的に重要な技術事項ではないからである。第二イ号製品は、本件考案と基本的に同一の技術思想に立脚しながら、実用新案登録請求の範囲のうち、比較的重要性の少ない構成要件Cの「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズル部の一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させる」構成、及び、構成要件Dのうち、「吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」構成を省略したものということができるから、第二イ号製品は不完全利用(改悪実施)の成立要件<1>を充足する。

(二) 要件<2>について

本件考案は、被告の改悪実施の時点において既に公知となっていた。そのことは、被告自身本件実用新案登録出願について登録査定された際、登録異議の申立をしていることからも明らかである。したがって、被告が、本件考案の構成要件C若しくはDを省略し、あるいはそれと類似の方法に置換することは極めて容易なことであった。すなわち、本件考案が、薬液ノズル部の吐出口部を混合液ノズル部の両端のうちの水ノズル部と対向する一端口部と水ノズル部との中間部分若しくは混合液ノズル部内で水と薬液を混合させる構成としたのに対し、第二イ号製品は、薬液ノズル部の吐出口部を中継ノズル部の水ノズル部と対向しない他端口部と同一平面ないしその外側に突出するように設置し、水と薬液を空気中で混合させるように構成に置換したものであるが、そのように置換することは当業者にとっては極めて容易なことであった。したがって、第二イ号製品は不完全利用(改悪実施)の成立要件<2>を充足する。

(三) 要件<3>について

第二イ号製品は、(二)で述べたように、薬液と水との混合開始部位を変更することによって、本件考案に比べ、次の二点で作用効果上明らかに劣るものになっている。

(1) うがい装置において、薬液と水との混合性が高ければ高いほど良いことは自明である。そうだとすれば、本件考案と第二イ号製品の技術上の優劣は、結局、薬液と水を混合液ノズル部の内部で混合させる本件考案と、中継ノズル部から吐出されて人の口に入るまでの空気中で混合させる第二イ号製品とでは、どちらが混合性が高いかという比較の問題に帰着するが、その点はいうまでもなく本件考案の方が混合性は高い(検甲第一号証~第三号証の本件考案製品の薬液と水との混合状況を撮影した実験写真と検甲第四号証~第六号証の第二イ号製品の薬液と水との混合状況を撮影した実験写真の対比)。したがって、第二イ号製品が薬液ノズル部の先端口部を中継ノズル部と同一平面とし、あるいはその外側に突出させる構成を採ったことは、本件考案に比べて明らかに作用効果の劣る類似方法に置換したものといえる。

(2) 第二イ号製品の構造では、断水時等何らかの事由で水の供給が急に止ったときに、吐出口部から薬液のみが噴出することになり、それがうがいをしようとする人の口や目に入ったりして極めて危険である。実際、原告も、本件考案の研究開発段階において、薬液の噴出ノズル口を装置本体の上面に設け、薬液が水道に逆流しないように、水道水の噴出ノズル口を薬液ノズル口より上部に併設した自動うがい装置の考案を完成させて実用新案登録出願し、昭和五一年七月二九日付で右出願について出願公告もされた(甲第七号証の4)が、この別出願の装置は、水道水の噴出ノズル口と薬液の噴出ノズル口が装置上面に突出し、薬液と水との混合が装置外の空気中で行われ、その点では第二イ号製品と同様の構造を有していたのである。ところが、この装置では、水道水の噴出ノズル口を上部に位置させることによって、薬液が水道に逆流することは防止し得たが、反面、薬液と水の流路を最終段階まで別個に形成し、かつ、各噴出ノズル口を装置上面に併設した結果、断水時等水の供給が急にストップしたときに、薬液のみが単独で噴出する危険があることが判明し、原告が右装置の実用化を見送ったという経緯がある。第二イ号製品は、原告がこのように実用化を断念した別出願の装置と同一の構造を採用しており、技術的完成を期する限り第二イ号製品の構成を採用するはずがなく、言い換えれば本件考案の実用新案登録請求の範囲を知ってこれから逃れるため、あえて本件考案よりも技術的に劣ることが明らかな構成を採用したものといえる。

右(1)(2)の事実を総合すると、第二イ号製品が薬液ノズル部の先端口部を中継ノズル部と同一平面ないしその外側に突出するように構成しているのは、明らかに本件考案よりも作用効果の劣る類似方法に置換したものということができ、第二イ号製品は不完全利用(改悪実施)の成立要件<3>を充足する。

(四) 要件<4>について

第二イ号製品は、たとえ本件考案の構成要件C及びDを省略することにより、その構成要件該当性を回避し、そのような構成要件の省略によって作用効果の低下をもたらすけれども本件考案が達成した作用効果の主要部分は維持しており、本件考案出願前の従来技術に比べれば、なお特に優れた作用効果を奏している。すなわち、本件考案の本質的特徴は、構成要件Bの水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設ける構成を採用した点にあるところ、その点は第二イ号製品も全く同一であり、その作用効果も、薬液の水道への逆流を完全に防止し、かつ、薬液と水との混合性の点で、本件考案に比べれば劣るものの、本件考案出願前の従来技術に比べれば、なお特に優れている。したがって、第二イ号製品は不完全利用(改悪実施)の成立要件<4>を充足する。

(五) 主観的要件について

不完全利用(改悪実施)論を認める場合にも、その要件として「専ら権利侵害を免れるために」という主観的要件を必要とするか否かについては議論がある。しかし、原告は、前述したように、既に第二イ号製品と同様に水と薬液を装置外の空気中で混合させる構成の別出願の装置の考案を完成させて実用新案登録出願し、右出願について昭和五一年七月二九日付で出願公告もされたが、前記した危険があるため実用化を見送ったという経緯がある。したがって、技術的に完全を期する限り、本件考案の構成要件Cのうち、水と薬液との混合開始部位を装置外の空気中とする改悪実施をするはずはなく、被告が本件考案の実用新案登録請求の範囲の内容を知ったうえで、敢えてこれを回避するために技術的に作用効果の劣る手段を採用したものと推認されてもやむを得ない。その意味で第二イ号製品は不完全利用(改悪実施)成立のための主観的要件も充足している。

(被告主張に対する反論)

1 被告は、第二イ号製品では、薬液の周囲を水が包み込むように吐出されて混合するので、薬液が水に対して偏らず、水流内で均等に分散し、本件考案のように混合液ノズルの中を流さなくても十分に混合させることができる旨主張するが、右被告主張は誤りである。別添参考図面の図1は、第二イ号製品の混合液ノズル部の吐出口部から水のみが吐出される場合、及び、同吐出口部から薬液のみが吐出される場合の、水又は薬液の吐出方向を示している。また、同図2は、第二イ号製品の混合液ノズル部の吐出口部から水と薬液が同時に吐出される場合の吐出方向を示している。これらの図面に基づいて説明すると、標準的な第二イ号製品においては薬液の吐出角度は七〇度に設定されており、しかも薬液は薬液ノズルの先端口部から染み出る程度というのが被告の主張であるから、薬液の吐出速度は水の吐出速度に比べればはるかに小さく、図1に示すように、水は勢いよく吐出されるけれども、それに比べて薬液の勢いは非常に小さい。そのため、水は吐出後も吐出方向に流出していくのに対し、薬液は吐出口部を出るや否や重力により落下してしまう。したがって、水と薬液が混合液ノズルの吐出口から同時に吐出される場合を考えると、薬液は吐出後直ちに落下しようとするが、吐出水流に後押しされ、両者の力のバランスにより図2に示すように、薬液は吐出された水流の下側部分(図2のイの部分)へ集ろうとし、水流の上側部分(図2のロの部分)へ移動することはあり得ない。このように、第二イ号製品では、被告主張の「薬液が水に対して偏らず水流内で均等に分散する」ことは理論上は起こり得ない現象である。これに対して、本件考案では、水と薬液が混合液ノズル部の内部を流れるので、同ノズル部の内壁面の影響を受けて水と薬液との混合性が非常に高まる。混合液ノズル部の内部を流れる水と薬液は、同ノズル部内の内壁面の抵抗を受けて乱流を生じ、混合液が更に他の液に混合されるという二次混合を生じ、全体として均一な混合を得られるのである。

2 被告は、第二イ号製品の場合、断水時等に水の供給が急にストップし薬液のみが吐出した場合であっても、薬液は中継ノズルの先端面から僅かに滲み出る程度に流量調整されており、しかも、中継ノズルの外側はカバーで覆われているので、薬液が人の口や目に入る程度の強い勢いで飛び出す恐れはない旨主張する。しかし、第二イ号製品は、本来は被告主張の調整流量よりもはるかに高い薬液吐出能力を発揮し得る構造に設計されており、必要であれば何時でも強力な薬液吐出が可能なレベルに流量調整をすることができる。したがって、何らかの事情で適正薬液流量のセットを誤るとか、人為的又は自然的要因によって元々セットされていた流量が途中で変動した場合、断水時等に薬液のみが急に勢いよく飛び出すこととなり極めて危険である。

3 被告は、第二イ号製品に前項で述べたような危険性があるとすれば、本件考案の願書添付明細書に記載の従来品(添付図面第2図に図示のもの)にも同様の危険性が内在していたと解されるところ、本件考案がそのような危険防止という技術的課題の解決手段を企図したのであれば、それは原告が本件考案の出願に際し第二イ号製品のような構成(水と薬液の流路を最後まで別個に形成し、水と薬液を空気中で混合する構成)を意識的に除外したことを示す何よりの証左にほかならず、そのように意識的に除外して実用新案登録出願をした考案について、登録査定後になってそれも本件考案の技術的範囲に含まれると主張することは許されない旨主張する。しかしながら、本件考案は、右の危険防止という技術的課題を最重要構成要件である構成要件Bの「水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設けること」によって解決しようと図ったものである。ところが、第二イ号製品は、本件考案の構成要件Bはそっくりそのまま流用しつつ、これに混合開始部位のみを空気中とする有害な事項を付加したため、薬液のみが単独で噴出する危険が残存しており、そのことはまさに第二イ号製品が本件考案に比べて作用効果の劣る類似方法に置換したことを物語っている。

4 被告は、原告が実用化を断念したうがい装置(甲第七号証の4)と比較して、第二イ号製品が薬液や混合液の飛沫の発生自体を防止したり、薬液の吐出速度を低くして薬液が人の口や目に入る危険性をなくすといった作用効果があるかのように主張する。しかしながら、飛沫の発生防止は薬液の水道側への逆流の危険回避との関係で必要であるところ、第二イ号製品ではその作用効果を本件考案の構成要件Bをそのまま流用することにより達成しているが、実質的には右危険を全く回避し得ていない。

【被告の主張】

1 原告は、第二イ号製品は、本件考案の構成要件C及びDを具備しないとしても、薬液と水との混合性の点で本件考案に劣るとともに、断水等何らかの事由で水の供給がストップしたときに、薬液のみが吐出口部から噴出し、それがうがいをしようとする人の口や目に入り極めて危険であって、本件考案の作用効果を低下させる以外の何らの優れた作用効果を伴わないものであるから、本件考案の構成要件にむしろ有害な事項を付加して本件考案の技術思想を用いるものであり、本件実用新案権を侵害するものである旨主張する。しかしながら、第二イ号製品において、薬液は水流内で均等に分散しており、薬液と水との混合性の点で本件考案に劣ることは全くないし、原告主張の薬液噴出の危険性もない。したがって、第二イ号製品は、原告主張の不完全利用(改悪実施)の成立要件<1>~<3>をいずれも充足しないから、原告の不完全利用(改悪実施)の主張は失当である。

2 原告は、本件考案の最重要構成要件が構成要件Bの「水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設けること」にあることは明らかであり、「薬液や混合液の飛沫が水ノズル部に付着するなどして、水道に逆流することがなくなる」ことこそが本件考案の解決すべき中心的技術的課題となっている旨主張する。しかしながら、水ノズル部とは独立した混合液ノズル若しくは中継ノズルを、一定の空間を置いて各々一端が対向するように設置する点については、本件考案の願書添付明細書にはその目的及び作用効果に関して全く記載がなく、かえって、原告が付随的構成要件であると主張するその他の構成要件についてのみ、その目的及び作用効果が記載されている。本来明細書には、当該考案が解決しようとする技術的課題(目的)と、これを解決するための手段(構成)がその作用とともに記載され、これによって生じた特有の効果が具体的に記載されているはずのものであるから、右原告主張は明細書の記載を離れて不当にその技術的思想を抽象化し拡大解釈するものにほかならない。また、真実構成要件Bのみが本件考案の最重要構成要件であり、他の構成要件は付随的構成要件にすぎないのであれば、原告はクレームをその点に絞って実用新案登録請求すべきであったのであって、他の構成要件を加えて実用新案登録請求し登録査定されたということは、本件考案は、それらの付随的構成要件も併せて初めて登録に値する新規性及び進歩性が認められたことを示すものといわざるを得ない。したがって、右原告主張は、本件考案の技術的範囲を拡大解釈するために事後的に創作した主張であり失当である。

3 原告は、本件考案はうがい装置であるから、薬液と水を混合する部位は、うがいをしようとする人の口に入るまでの間であれば、どこでもよいのであって、どの部位で混合させるかは薬液と水との混合性を可能な限り高くするという技術的観点から適宜選択されるべき設計事項であり、それ自体さして本質的に重要な技術的事項ではない旨主張する。しかしながら、第一イ号製品と第二イ号製品との客観的相違点は、薬液ノズルの先端口部が中継ノズルの内部(先端から三ミリメートル以内)に位置しているか、中継ノズルの吐出口部と同一位置又はこれより先に突出しているかの違いにすぎず、それは換言すれば混合開始部位の違いでもある。ところが、原告は、水と薬液との混合開始部位が技術的に重要であると主張する一方で、混合液ノズル部の吐出口部のうち開口部の内側直近部分において混合させるのも外側直近部分において混合させるのも、右うがい装置全体から考えれば格別技術的に有意差はない旨主張しており、かような論理一貫しない主張が許されないことは明らかである。

4 原告は、第二イ号製品が本件考案に比べて薬液と水との混合性が明らかに劣る旨主張するが、そのような事実はない。何故ならば、薬液と水との混合方法が第二イ号製品と本件考案とでは全く相違するからである。すなわち、本件考案では、水流の外側から薬液を当てて混合するため、薬液が水に対して偏りやすいため薬液を水に加えた後、混合液ノズルの内部を通過させることによって所望の混合度を得ているのに対し、第二イ号製品では、薬液の周囲を水が包み込むように流れて混合するので、薬液が水に対して偏らず、薬液が水流内で均等に分散し、本件考案のように再度混合液ノズルの内部を通過させなくても、十分に混合することができるからである。したがって、混合開始位置とうがいをする人の口との間の距離だけから混合性の優劣を単純に比較することはできない。その点を更に敷衍して理論的に説明すると、次のとおりである。すなわち、中継ノズルから吐出する水の流れは乱流であり、しかも、薬液の流速は毎秒約一五〇mmであるのに対し、水の流速はその約一〇倍であるから、水の持つ運動エネルギー量は薬液の持つ運動エネルギー量の約一〇〇倍となる。また、薬液の比重は水の比重にほぼ等しい。したがって、そのような条件の下での水と薬液との混合は、いわば濁流のように激しく流れる水流の中に薬液を少量ずつ滴下するようなものであるから、薬液は水流によって直ちにかき混ぜられ均等に分散する。このことは第二イ号製品(薬液ノズルの中継ノズルからの突出長さが〇・二mm程度)における、水と薬液との現実の混合状態を見ても明らかである。つまり、第二イ号製品において、水は薬液の周囲を取り囲むようにして流れ、かつ、薬液が水の中に均等に分散して混合しており、原告の主張するような薬液の落下現象は生じていないし(検乙第五号証ないし第八号証)、薬液ノズルの出口付近では薬液が拡張しており(検乙第三号証)、原告の主張するような水が薬液ノズルの先端部で収斂する現象も発生してはいない(検乙第五号証ないし第八号証)。以上のとおり、第二イ号製品においては、薬液は水流内で均等に分散しており、第二イ号製品が本件考案に比べて混合性の面で劣るとの原告の主張は失当である。

5 原告は、第二イ号製品の構造では、断水等の何らかの事由で水の供給が急に止った場合に薬液のみが吐出口部から噴出することになり、それがうがいをしようとする人の口や目に薬液が入ったりして極めて危険である旨主張する。しかしながら、右原告主張も全く理由がない。何故ならば、第二イ号製品の場合、断水時等に薬液のみが吐出したとしても、薬液は中継ノズルの先端面から僅かに滲み出る程度に流量調整されており、しかも中継ノズルの外側はカバーで覆われているので、薬液が人の口や目に入る程度の強い勢いで飛び出す恐れはないからである。したがって、第二イ号製品が混合性の点で本件考案よりも明らかに作用効果の劣る類似方法に置換したものであるとする原告主張は失当である。この点を更に具体的に説明すると次のとおりである。標準的な第二イ号製品の場合、最適なうがい液をつくるために、薬液の希釈倍率は約一〇〇倍に設定されている。そして、この希釈倍率を達成するために、ペダルを一回(約一〇秒間)踏み続けた場合に吐出される薬液の全吐出量は、約〇・一七ミリリツトルになるように流量調整されている。すなわち、薬液ノズル内を流れる薬液の流量は毎秒約〇・一七ミリリツトルである。一方、薬液ノズルの内径は一・二mmであるから、薬液ノズル内を流れる薬液の流速は毎秒約一五〇mmとなる。ところで、薬液ノズルから薬液を空気中に上向きに吐出した場合、その最大吐出高さHは次式で与えられる。

<省略>

右式において、Vは流速、θは薬液の吐出角度、Gは重力加速度であり、吐出角度を七〇度とした場合(イ号製品は通常右角度に調整されている。)、最大吐出高さHは一・〇一mmとなり、実際のイ号製品の吐出高さもほぼこれと同じである。要するに、イ号製品の場合、断水時に薬液のみを吐出させても、薬液は薬液ノズルの先端から滲み出る程度であり、人の口や目に入る危険性がないことは明らかである。

この点について、原告は、薬液の流量調整バルブの調整不良という特殊条件を付加して、何らかの事情で個別装置の流量セットを誤るとか、人為的あるいは自然的要因によって流量セットが急に移動した場合には、高度の吐出能力を有することになり、極めて危険である旨反論する。しかしながら、原告が第二イ号製品の危険性を主張するについて、第二イ号製品と同様の構造を有するとしている甲第七号証の4の考案の場合、薬液を水と同等又はそれ以上の高さに吐出させる必要上、薬液が高速で吐出するよう流量調整バルブの調整が正常な場合でも薬液噴出の危険性が内在しているのに対し、第二イ号製品では流量調整バルブが正常である限り、そのような危険性は全くない。要するに、原告は、第二イ号製品に特殊な条件を勝手に付加することによって、架空の薬液噴出の危険性を創作し、それを前提に第二イ号製品が混合性の点で本件考案に比べて明らかに作用効果の劣る類似方法に置換した旨主張しているのであり、被告としては右原告主張を断じて容認できない。原告が右のような架空の危険を前提とする主張を何度も繰り返すということは、取りも直さず原告が本件考案の出願に際しイ号製品のような構造を本件考案の技術的範囲から意識的に除外したことを示す何よりの証左というべきである。

なお、原告は、本件考案の実施品のうがい液の吐出状況を撮影した写真として検甲第一号証ないし第三号証を提出しているが、それらの写真は本件考案とは全く無関係である。また、原告は、第二イ号製品が本件考案の改悪実施であることの証拠として、検甲第四号証ないし第八号証の2の実験写真を提出している。しかし、右実験写真のうち特に検甲第七号証の2及び3は、通常の使用条件下ではなく、極めて特殊な条件下での状況を撮影した写真であり、第二イ号製品が持つ本質的特徴をことさら無視するものである。

6 原告は、第二イ号製品と同様の構造を採用したうがい装置を考案したが、この装置においては、水道水の噴出ノズル口を上部に位置させることによって、薬液が水道側に逆流することは防止し得たが、反面、薬液と水の流路を最終段階まで別個に形成し、かつ、各噴出ノズル口を装置上面に併設したため、断水時等の水の供給が突然ストップしたときに、薬液のみが単独で噴出する危険があることが判明したため、右装置の実用化を見送った旨主張する。しかしながら、もし本当にそのような危険性があるとすれば、本件考案の詳細な説明中に記載の従来品(添付図面第2図に図示のもの)に同様の危険性が内在していたものと解される。そして、本件考案がそのような薬液噴出の危険回避という技術的課題の解決を企図したものであれば、第二イ号製品のような構成(水と薬液の流路を最後まで別個に形成し、水と薬液を空気中で混合する構成)を本件考案の技術的範囲から意識的に除外したことを示す何よりの証左というべきである。そして、そのように意識的に除外して実用新案登録出願した考案について、登録査定後になってそれが本件考案の技術的範囲に含まれると主張することが許されないことは明らかである。

7 原告は、第二イ号製品は、原告が実用化を断念したうがい装置と同一の構造を採用しており、極めて危険な商品といわざるを得ず、明らかに本件考案よりも作用効果の劣る類似方法に置換したものといえる旨主張する。しかしながら、右原告主張は失当である。何故ならば、右の原告が実用化を断念したといううがい装置は、水道水の噴出ノズル口を薬液の噴出ノズル口より上部に併設したものであり、水流に対して薬液を外側から当てるという点では本件考案のうがい装置と大差ないからである。要するに、原告が実用化を断念したうがい装置には、水が流れるノズルの中心に薬液ノズルを配置し、水が薬液の周囲を取り囲むようにして流れて混合するという第二イ号製品の技術的思想は全くなかったのであり、そのために、原告が実用化を断念したうがい装置では、薬液や混合液の飛沫の発生自体を防止したり、薬液の吐出速度を低くして薬液が人の口や目に入る危険性をなくすといった作用効果は全く奏し得ていなかったのである。したがって、そのようなうがい装置と第二イ号製品とを同一視したうえで本件考案と第二イ号製品の作用効果の優劣を論じることは不合理であり、第二イ号製品は本件考案に比べ明らかに作用効果の劣る類似方法に置換したものとはいえないとともに、そのような置換が容易であったともいえない。

第四  争点に対する判断

一  争点1(一)(イ号製品は、本件考案の構成要件B、C及びDを具備しているか)

1  本件考案の構成要件B、C及びDの解釈

実用新案登録請求の範囲には、「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ、前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成した」と記載されていて、「水」、「薬液」及び「水と薬液との混合液」が明確に区別されているとともに、「水の吐出方向」という場合の「水」には「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る」という一義的に明瞭な限定が加えられている。そして、考案の詳細な説明には、「薬液ノズル部の先端口部から出た薬液は水ノズル部の先端口部から出た水に当たって混合され、その後混合液ノズルの吐出口部から所定角度で吐出される。」(公報3欄12行~15行)と明記されており、右記載は本件考案の実施例の作用に関する説明ではなく、本件考案そのものの作用に関する説明である。また、考案の詳細な説明には、本件考案の効果について、「薬液ノズル部の先端口部の位置は水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができ、かつ薬液が水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に当たるようになっているので薬液の飛沫が水ノズル部に付着することがない。」(同4欄23行~28行)と記載され、実施例について、「水ノズル部5の先端口部5aから水平に吐出した水が混合液ノズル10の一端に届く迄に薬液ノズル部9の先端口部9aから水平に吐出した薬液が水に当たって混ざり合い」(同3欄30行~34行)と記載され、右実施例の説明記載を具体的に示す唯一の図面である添付図面第1図(「本考案の一実施例を示す要部斜視図」)にも右説明記載に沿い、水ノズル部5の先端口部5aから混合液ノズル10の一端に向かって先端に矢印を付記した一本の直線が明瞭に描かれている。したがって、これら明細書及び添付図面の記載内容を総合勘案して、ごく常識的に右実用新案登録請求の範囲の記載を解釈すると、そこでいう「水の吐出方向」とは、字義どおり「水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る」までの間の水の吐出方向、すなわち右添付図面第1図の矢印付直線の矢印の指し示す方向として特定されていることは明らかである。

たしかに、考案の詳細な説明中には、「また薬液ノズル部9の先端口部9aを混合液ノズル10の一端側に接続し、混合液ノズル10の内部で薬液を水に当てるようにしても良い。」(公報4欄18行~21行)という、一見すると前示の実用新案登録請求の範囲記載の「水の吐出方向」の意味とは矛盾するかのような記載があり、原告は、右記載を根拠に、本件考案における「水の吐出方向」という場合の「水」の中には、混合液ノズルの一端に入ろうとする水のみならず、同ノズルの一端に入った水も含まれ、実用新案登録請求の範囲記載の「吐出方向に対して」とは、右のような意味での一連の水の流通過程における全ての「水の流通方向に対して」という広い意味に解釈すべきである旨主張する。しかしながら、右記載の「混合液ノズル10の一端側に接続し」という場合の「一端側」の文言は、実用新案登録請求の範囲に「一端が対向して混合液ノズル部を設け、……混合液ノズルの一端に入る……」という場合の「一端」の用語と同義で使用されており、「混合液ノズルの他端の吐出口部」の反対端を意味していることは明らかであるから、右実施例の場合は混合液ノズルの一端(入口)側に薬液ノズルの先端部を接続し、薬液ノズル内で水と薬液を混合した後薬液ノズルの他端の吐出口部からこの混合液を吐出させるように構成したもの(この実施例の場合は、器材的一体性をもつ混合液ノズルは、本件考案の構成要件としての機能からみると、一端〔入口〕側から薬液ノズル先端接続箇所までの部分は混合液ノズルの機能を果たす部位ではなく、同接続箇所が実用新案登録請求の範囲にいう「混合液ノズルの一端」に該当し、それから他端の吐出口までの部分が「混合液ノズル」に該当することになる)と認められ、この場合も混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向と同所に入った水の方向は同一と考えられるから、原告主張の如く広い意味に解釈することは到底できず、結局、本件考案のうがい装置は、混合液ノズルの一端に入った水と薬液との混合液の混合性を同ノズル内部でさらに高めその混合を実質的に終了させたうえ(その目的で、本件考案では水ノズル部及び薬液ノズル部とは別に「混合液ノズル」を設置している。)、混合を実質的に終了した「混合液」を「混合液ノズルの他端……吐出口部より……吐出させる」構成を採っているものと認めざるを得ない。これと異なる解釈を前提とする右原告主張は、願書添付明細書及び図面の記載に基づくことなく、イ号製品が本件考案の技術的範囲に属するように意図的に実用新案登録請求の範囲の記載を解釈するものであって、到底採用できない。

また、原告は、構成要件Bが本件考案の本質的特徴で、本件考案の最重要構成要件であるから、同構成要件との関係では、その他の構成要件はいずれも付随的構成要件にすぎず、そのような付随的構成要件中の個々の用語の意味はさほど厳格に解釈する必要はない、本件考案はうがい装置であり、水と薬液は最終的にうがいをしようとする人の口に入るまでの間に混合されればよいのであるから、本件考案における水と薬液との混合開始部位は、水が水ノズル部から吐出されてから混合液ノズルの一端に入るまでの間、混合液ノズルの一端に入った後、同ノズルの他端から吐出されるまでの間、及び、吐出された直後の全ての時点における水の流通部位を包含していると解すべきである旨主張する。

しかしながら、構成要件Bの「水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設けること」が本件考案の重要な構成要件であることは肯認できるけれども、構成要件Dの「混合液ノズルの他端……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成すること」(混合液ノズル内において水と薬液との混合を実質的に終了しその混合液を同ノズルから吐出させるように構成すること)も構成要件Bに劣らず重要な構成要件であると認められるから、構成要件Dを軽視ないし無視する右原告主張は到底採用できない。

2  本件考案とイ号製品の対比

本件考案とイ号製品を対比すると、イ号製品は、薬液ノズルを中継ノズルに接続しているが、中継ノズルの一端側(入口側)に接続するものではなく、その他端吐出口部に接続するものであって、水と薬液との混合を実質的に終了させる目的・機能を有する、本件考案にいう「混合液ノズル部」に該当するものがなく、混合液ノズル内で水と薬液との混合を実質的に終了したうえ同ノズルの他端の吐出口部より混合が実質的に完了した水と薬液の混合液を吐出させる構造を有しない点(第一イ号製品では、中継ノズルの先端三ミリメートル以内では極く僅かに水と薬液との混合が開始されるが、大部分の混合は吐出後空気中において行われるから〔検乙一~八、弁論の全趣旨〕、右中継ノズルの先端三ミリメートル以内を本件考案にいう混合液ノズルに該当すると認めることはできない。)において、本件考案とは明らかに相違している。

なお、イ号製品の構成のうち、薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させている構成(構成c)については、本件考案の願書添付明細書中では何ら触れられていないし、これを示唆するような記載もない。本件出願願書添付明細書及び図面の記載から薬液ノズル部の先端口部を中継ノズル部の他端の吐出口部の中心に位置させ、水と薬液との混合を吐出後の空気中で行わせるというイ号製品の技術思想は引出せない。

要するに、本件考案とイ号製品は、水と薬液との混合の場所・方法に関してその立脚する技術思想が相違し、イ号製品は、水と薬液との混合の場所・方法に関しては、本件考案の詳細な説明中において従来の技術として挙示している添付図面第2図の装置の改良型に属するものと認められる。

3  結論

イ号製品は、本件考案の構成要件Bの「混合液ノズル部」の構成、構成要件Cの構成及び構成要件Dの「混合液ノズルの他端……の吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させる」構成を具備していないといわざるを得ない。

二  争点1(二)(第二イ号製品は、本件考案のいわゆる改悪実施又は不完全利用に当たるか)

原告は、第二イ号製品が本件考案の構成要件の一部を欠くとしても、前記の理由(第三の二【原告の主張】)により、第二イ号製品は本件考案のいわゆる改悪実施又は不完全利用に当たるから、被告がこれを製造販売することは本件実用新案権の侵害を構成する旨主張するが、前項説示のとおり、第二イ号製品は、「水と薬液との混合を実質的に終了させる目的・機能を有する混合液ノズル部を設置し、同ノズル内で水と薬液との混合を実質的に終了させたうえ、その混合液を同ノズルから吐出させるように構成する」という本件考案の重要な構成要件を欠いており、水と薬液との混合の場所・方法に関して本件考案とその立脚する技術思想を異にしている以上、右原告主張は到底採用できない。

なお、本件考案の詳細な説明には、原告が給水の圧力のバランスがくずれたときに薬液の急激な噴出の危険があるため実用化を断念したと主張する、「うがい薬液の貯液槽に連結した薬液の噴出ノズル口を装置本体の上面に設け、薬液が水道に逆流しないように水道水の噴出ノズル口を薬液の噴出ノズル口より上部に併設した自動うがい装置。」(実公昭五一-三〇一四八号、甲第七号証の4)に類似の装置を従来のうがい装置として挙示し、「従来から知られているうがい装置として第2図に示すように構成されたうがい装置がある。この第2図に示すうがい装置は、……水道水がニードル弁4を通って水ノズル部5から吐出され、……薬液はニードル弁8を介して薬液ノズル部9から吐出され、前記水ノズル部5から出た水と薬液ノズル部9から出た薬液を混合状態でうがい液として使用に供し得るようにしてある。」(公報1欄18行~2欄4行)と記載しており、右従来技術は、水と薬液を装置外の空気中で混合する点では、イ号製品と基本的原理ないし作動態様を共通にするが、右従来のうがい装置では、イ号製品の構成(構成c)が採っている、薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで吐出されるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させるという技術思想を欠いており、むしろ、本件考案の出願願書添付明細書の考案の詳細な説明に、「このようなうがい装置において、水ノズル部5および薬液ノズル部9を一定の上向き角で設けなければうがい液を口に含むことはできず、両ノズル部5、9の先端が互いに接近していると薬液ノズル部9から出た薬液の飛沫が水ノズル部5に付着して水ノズル部5を汚染するという問題がある。そこで両ノズル部5、9の先端があまり近すぎないように両ノズル部5、9を設けると、薬液ノズル部9から薬液を吐出するためのポンプに大きな力がなければ抵抗の大きな細い径の薬液ノズル部9から薬液を水に到達するように充分に飛ばすことが困難である。」(公報2欄6行~17行)と記載されているように、実用化の面では多分に問題のある装置であると本件考案者は認識していたと認められる。そして、「この問題点を解決するために本考案は、先端口部より水を吐出させる水ノズル部と、先端口部より薬液を吐出させる薬液ノズル部とを備えたうがい装置であって、前記水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズルを設け、水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角及至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ、前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成したものである。」(同2欄24行~3欄10行)と記載されている。以上の事実によれば、本件出願当時、本件考案者は、水が吐出されるノズルの中心に薬液ノズルを配置し、水が薬液の周囲を取り囲むようにして吐出しその後空気中において両者を混合させるという、イ号製品が採用しているような構成を具備したうがい装置は、全くその認識の埒外にあったものと認めざるを得ない。そして、本件出願当時、本件考案者は、従来技術のように薬液と水をうがい装置から吐出させた後空気中で混合させる方法のあること自体は認識していたが、右のような混合方法を採用した場合、前記問題点が生じこれを解決できないため、薬液と水を装置から吐出させた後空気中で混合させる方法の採用を断念し、その代りにうがい装置内に水と薬液との混合を実質的に終了させる目的・機能を有する混合液ノズル部を設置し、同ノズル内において水と薬液との混合を実質的に終了させたうえこの混合液を同ノズルの吐出口部より吐出させる構成を考案し出願したのが本件考案であるから、この混合液ノズルの構成は本件考案の重要な必須の構成要件であって、この構成要件を具備しないイ号製品を、本件発明の実施品とみることはできない。

証拠(甲六、検乙一~八、弁論の全趣旨)によれば、イ号製品では、薬液ノズルは中継ノズルの中心部に配置され、かつ水の流れと平行に吐出されるように開口しているため、薬液の周囲を水が取り囲む恰好となり、薬液が外部に飛び散ることがないこと、しかも、薬液の周囲を水が高速で吐出されるため、水に対して薬液は均等に分散し、空気中において水と薬液とが十分に混合される等の本件考案にはない独自の作用効果が生ずることが認められる。

三  結語

原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 本吉弘行)

第一物件目録

別紙第一イ号製品図面に示す左記構造を有する自動うがい機(各付記番号は、同図面の付記番号に対応する。)

a 先端口部5aより水を吐出させる水ノズル部5と、先端口部9aより薬液を吐出させる薬液ノズル部9とを備えている。

b 前記水ノズル部5の先端口部5aから吐出された水が入る、同水ノズル部の先端口部5aに一端が対向する中継ノズル部10を設けている。

c 前記薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させている。

d 中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の吐出口部9aから吐出される薬液とを、中継ノズル部内及び空気中において混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の先端口部10aより三ミリメートルより少なく内部に位置させて設置している。

e 中継ノズル部の吐出口部10aと薬液ノズル部の先端口部9aとをともに上向きに傾斜させている。

f うがい装置である。

第一イ号製品図面

<省略>

第二物件目録

別紙第二イ号製品図面に示す左記構造を有する自動うがい機(各付記番号は、同図面の付記番号に対応する。)

a 先端口部5aより水を吐出させる水ノズル部5と、先端口部9aより薬液を吐出させる薬液ノズル部9とを備えている。

b 前記水ノズル部5の先端口部5aから吐出された水が入る、同水ノズル部の先端口部5aに一端が対向する中継ノズル部10を設けている。

c 前記薬液ノズル部9から吐出された薬液に対して、中継ノズル部10から吐出された水が平行に、かつ、水が薬液を包み込んで流れるように、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の他端の吐出口部10aの中心に位置させている。

d 中継ノズル部の吐出口部10aより吐出される水と、薬液ノズル部の先端口部9aから吐出される薬液とを空気中で混合させるよう、薬液ノズル部の先端口部9aを中継ノズル部の吐出口部10aと同一又はこれより先方に突出した位置に設置させている。

e 中継ノズル部の吐出口部10aと薬液ノズル部の先端口部9aとをともに上向きに傾斜させている。

f うがい装置である。

第二イ号製品図面

<省略>

謝罪広告目録

一 掲載内容

当社が平成四年四月以降自動うがい機を製造販売したことにより、貴社が有する実用新案権(登録番号第一九二三三一六号)を侵害し、これがために貴社の名誉・信用を害し、多大の迷惑をおかけしましたことをここに謝罪します。

平成 年 月 日

大阪府吹田市津雲台七丁目四番D一二六-一〇一号

株式会社アルボース

代表取締役 佐治信

サラヤ株式会社 御中

二 掲載方法

1 掲載新聞 日本経済新聞及び朝日新聞の各全国版

2 大きさ 下段広告欄二段抜き

見出し、宛名及び被告の氏名は四号活字、その他は五号活字

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平2-42262

<51>Int.Cl.5A 61 C 17/14 識別記号 庁内整理番号 <24><44>公告 平成2年(1990)11月9日

7108-4C A 61 C 17/00 F

<54>考案の名称 うがい装置

<21>実願 昭61-174653 <65>公開 昭63-79916

<22>出願 昭61(1986)11月12日 <43>昭63(1988)5月26日

<72>考案者 更家一郎 大阪府大阪市東住吉区湯里2丁目2番8号 サラヤ株式会社内

<72>考案者 山下富男 大阪府大阪市東住吉区湯里2丁目2番8号 サラヤ株式会社内

<71>出願人 サラヤ株式会社 大阪府大阪市東住吉区湯里2丁目2番8号

<74>代理人 弁理士 森本義弘

審査官 鈴木寛治

<57>実用新案登録請求の範囲

先端口部より水を吐出させる水ノズル部と、先端口部より薬液を吐出させる薬液ノズル部とを備えたうがい装置であつて、前記水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズル部を設け、水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角乃至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ、前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成したうがい装置。

考案の詳細な説明

産業上の利用分野

本考案は水に薬液を混合させてうがい液を吐出させるうがい装置に関するものである。

従来の技術

従来から知られているうがい装置として第2図に示すように構成されたうがい装置がある。この第2図に示すうがい装置は、ペダルなどの操作部1を押すことによりスイツチ2がオンになつて電磁弁3が開き、水道水がニードル弁4を通つて水ノズル部5から吐出され、同時に前記スイツチ2のオンによりポンプ6が動作して薬液タンク7から薬液を吸い上げ、その薬液はニードル弁8を介して薬液ノズル部9から吐出され、前記水ノズル部5から出た水と薬液ノズル部9から出た薬液を混合状態でうがい液として使用に供し得るようにしてある。

考案が解決しようとする問題点

このようなうがい装置において、水ノズル部5および薬液ノズル部9を一定の上向き角で設けなければうがい液を口に含むことはできず、両ノズル部5、9の先端が互いに接近していると薬液ノズル部9から出た薬液の飛沫が水ノズル部5に付着して水ノズル部5を汚染するという問題がある。そこで両ノズル部5、9の先端があまり近すぎないように両ノズル部5、9を設けると、薬液ノズル部9から薬液を吐出するためのポンプに大きな力がなければ抵抗の大きな細い径の薬液ノズル部9から薬液を水に到達するように充分に飛ばすことが困難である。

本考案はこのような問題点を解決するもので、薬液の飛沫が水ノズル部に付着するようなことなく、また薬液を吐出するポンプとして小さな力のポンプを使用できるうがい装置を提供することを目的とするものである。

問題点を解決するための手段

この問題点を解決するために本考案は、先端口部より水を吐出させる水ノズル部と、先端口部より薬液を吐出させる薬液ノズル部とを備えたうがい装置であつて、前記水ノズル部の先端口部に一端が対向して混合液ノズルを設け、水ノズル部の先端口部から吐出されて混合液ノズルの一端に入る水の吐出方向に対して直角乃至鋭角に水に薬液が当たるように前記薬液ノズルの先端口部を位置させ、前記混合液ノズルの他端の吐出口部を所定角度で上向きに傾斜させてこの吐出口部より水と薬液との混合液を吐出させるように構成したものである。

作用

この構成により、薬液ノズル部の先端口部から出た薬液は水ノズル部の先端口部から出た水に当たつて混合され、その後混合液ノズルの吐出口部から所定角度で吐出される。

実施例

以下、本考案の一実施例について、図面に基づいて説明する。

第1図は水および薬液の吐出部を拡大して示しており、水ノズル部5の先端口部5aを水平に向かせ、この先端口部5aから出た水に対して直角にかつ水平に薬液が吐出するように薬液ノズル部9の先端口部9aを水平に向かせてある。10は前記水ノズル部5の先端口部5aに一端が対向するように設けられた混合液ノズルで、この混合液ノズル10の他端の吐出口部10aはこの吐出口部10aから出た混合液(うがい液)を口に含みやすいように斜め上向きに傾斜している。他の構成は前記第2図に示す従来例と同じである。

上記構成において、前記水ノズル部5の先端口部5aから水平に吐出した水が混合液ノズル10の一端に届く迄に薬液ノズル部9の先端口部9aから水平に吐出した薬液が水に当たつて混ざり合い、混合液ノズル10に一端より流入する。そして混合液ノズル10内に流入した水と薬液との混合液は混合液ノズル10の他端の吐出口部10aから斜め上向きに吐出される。この実施例において、薬液ノズル部9先端口部9aの位置は水ノズル部5の先端口部5aから充分に距離を置くことができ、薬液ノズル部9からの薬液の飛沫が水ノズル部5に付着することがない。また、薬液ノズル部9の先端口部9aを水ノズル部5の先端口部5aと混合液ノズル10の一端との間の水吐出経路に近づけることができ、薬液吐出のためのポンプとしては小さな力のポンプを使用できる。

ところで、以上述べた実施例では水ノズル部5の先端口部5aと薬液ノズル部9の先端口部9aをそれぞれ水平に向かせているが、水ノズル部の先端口部を下に向かせ、この先端口部に対向するように混合液ノズルの一端を上に向かせ、水ノズル部の先端口部と混合液ノズルの一端との間で吐出されている水に薬液ノズル部の先端口部から水平に吐出された薬液が直角に当たるようにする構成とすることも可能である。また、薬液を必ずしも水に対して直角に当てる必要はなく、水ノズル部からの水の吐出方向に対して鋭角で薬液を水に当てるようにしても良い。また薬液ノズル部9の先端口部9aを混合液ノズル10の一端側に接続し、混合液ノズル10の内部で薬液を水に当てるようにしても良い。

考案の効果

以上のように本考案によれば、薬液ノズル部の先端口部の位置は水ノズル部の先端口部から充分に距離を置くことができ、かつ薬液が水の吐出方向に対して直角乃至鋭角に水に当たるようになつているので薬液の飛沫が水ノズル部に付着することがない。また、薬液ノズル部の先端口部を水の吐出経路に近づけることができ、薬液吐出のためのポンプとしては小さな力のポンプを使用できる。さらに前記混合液ノズルによつて水と薬液との混合液(うがい液)を口に含みやすい方向に吐出させることができる。

図面の簡単な説明

第1図は本考案の一実施例を示す要部斜視図、第2図は従来のうがい装置を示す構成図である。

5……水ノズル部、5a……先端口部、9……薬液ノズル部、9a……先端口部、10……混合液ノズル、10a……吐出口部。

第1図

<省略>

5…水ノズル部

5a…先端口部

9…薬液ノズル部

9a…先端口部

10…混合液ノズル

10a…吐出口部

第2図

<省略>

参考図面

<省略>

実用新案公報

<省略>

<省略>

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